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盛岡地方裁判所 昭和25年(行)80号 判決

原告 麦沢春松 外五名

被告 岩手県知事

一、主  文

被告が昭和二十四年二月一日附岩手ぬ第二一五二号、第二一五三号、第二一五四号、第二一五六号、第二一五七号、第二一五八号各買収令書をもつて別紙目録記載の各土地につきなした買収処分はいずれもこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、原告春松は昭和十八年九月二十六日別紙目録記載(1)の土地を、同種吉は同年十一月二十日(2)の土地を、同豊吉は前同日(3)の土地を、同三郎は前同日(4)の土地を、同定吉は前同日(5)の土地を、同力蔵は前同日(6)の土地をそれぞれ訴外佐々木富男から買い受け、その所有権移転登記は、原告春松及び種吉につき昭和二十一年一月二十八日、その余の原告等につき同年一月二十三日それぞれこれを経由し、いずれも昭和二十年中に右買受土地の引渡を受けて耕作し現在に至つている。

しかるに岩手県農地委員会は種市村農地委員会の権限を代行して、昭和二十年十一月二十三日現在の右各土地の所有者を前記佐々木富男であるとなし、同人の同日現在の事実に基き自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)第三条第一項第二号に該当するものとして、昭和二十三年十二月二十八日買収計画を樹立し、翌二十四年二月十九日公告、十日間書類を縦覧に供し、次いで被告知事は県農地委員会の所定の承認手続を経て昭和二十四年二月一日附主文掲記の各買収令書を発行し、右各令書を原告三郎及び豊吉に対しては昭和二十五年八月五日、その余の原告等に対しては同月七日それぞれ交付した。

しかしながら右各買収処分はいずれも左の理由により違法である。

(一)  別紙目録記載の各土地は基準時現在それぞれ原告等の所有であり、前記佐々木富男の所有ではないから、原告等の同日現在の事実に基いて買収要件の存否を定むべく、しかして原告等の所有農地はそれぞれ右土地を含めても、原告春松において一町七反歩、同種吉において二町四反五畝歩、同豊吉において五反八畝十五歩、同三郎において一町二反四畝歩、同定吉において五反八畝歩、同力蔵において六反六畝十歩を所有するにすぎない零細農家であり、いずれも法定の小作地保有面積の範囲内であつて前記法条に該当しないこと勿論である。

(二)  それのみならず別紙目録記載(1)の土地の買収請求者訴外麦沢仁太郎、同福松は一町八反十三歩(2)の土地の請求者原告春松は一町七反歩、(3)(4)の土地の請求者訴外穴津子音吉は一町一反五畝九歩、(5)の土地の請求者訴外大下政一は一町三反六畝歩、(6)の土地の請求者訴外櫃割市太郎は一町歩をそれぞれ所有し、いずれも原告等より富裕農家であるから、若し別紙目録記載の土地を買収し、右買収請求者等に売渡となるにおいては、原告等の生活状態が右訴外人等のそれに較べて著しく悪い結果となるべく、よつて自創法第六条の二第二項第四号により買収から除外するのを相当とする。

(三)  買収の時期が昭和二十三年十二月三十一日であるに対し買収計画樹立に際し、縦覧に供した書類及び前記各買収令書には買収の時期の記載がない。

(四)  しかも買収の時期が前記のように昭和二十三年十二月三十一日であるに対し、買収計画樹立の公告の日が昭和二十四年二月十九日であるから、買収計画樹立の公告前既に前記各土地の所有権が政府に移転することとなり不都合である。

以上いずれの点よりするも、被告知事のなした前記各買収処分は違法であつて取消を免れないから、原告等はそれぞれ各買収処分の取消を求むるため本訴請求に及ぶと述べ、被告の主張に対し、原告等がそれぞれ別紙目録記載の土地を訴外佐々木富男から買い受けるに際し、知事の許可を受けなかつたことは被告主張のとおりである。しかし、当時農地の売買につき臨時農地等管理令により地方長官の許可を受くべきこととされていたが、これは単なる取締規定にすぎないのであつて、右規定に違背し知事の許可を受けないでなした売買であつても私法上の効力には何等影響するところがなかつたのであるから、原告等は有効に右土地の所有権を取得したものであると附陳した(立証省略)。

被告訴訟代理人は、原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告等の主張事実中、その主張日時別紙目録記載の各土地につき、それぞれ訴外佐々木富男から原告等に対し売買による所有権移転登記のなされたこと、県農地委員会がその主張の日時種市村農地委員会の権限を代行して、右各土地の基準時現在の所有者を右佐々木富男として同人の同日現在における事実に基き買収計画を樹立し、その主張の日時これを公告し、その主張のように書類の縦覧の手続をなし、次いで被告知事が原告等主張日附の各買収令書を発行し、右各令書がその主張日時それぞれ原告等に交付されたこと、右買収手続における買収の時期が昭和二十三年十二月三十一日であること、買収計画樹立に際し縦覧に供した書類及び買収令書のいずれにも買収の時期の記載のないこと、原告等の各所有農地及び別紙目録記載の各土地についての原告等主張の買収請求者の各所有農地の面積がそれぞれ原告等の主張のとおりであることは、いずれもこれを認めるが原告等その余の主張事実はこれを争う。別紙目録記載の各土地は訴外佐々木富男の所有であり、多年原告等以外の小作人等がこれを小作し来つたのであり、昭和二十年度においても右佐々木富男に小作料を支払い、翌二十一年度は右各土地から麦を収穫したのであつて、右各土地は基準時現在右佐々木富男の所有小作地であり原告等の所有ではない。ところが昭和二十一年一月十日右佐々木富男は買収を免れるため、前記小作人等に反当千五百円の割合でそれぞれ小作にかかる右土地の買取方を交渉したが、小作人等はこれが買受に応じなかつたので、その頃小作人等に図ることなく原告等にその主張の各土地をそれぞれ売り渡したのであり、これが所有権移転登記に当つては、右売買が昭和十八年中になされたものの如く虚偽の事実を申し立て、そのように所有権移転登記がなされたのである。それのみならず右売買に当つては知事の許可を受けなかつたのであるから、仮りに右売買が原告等主張のように基準時前になされたものであるとしても右売買は無効であり、原告等はいずれもその主張の土地の所有権を取得し得なかつたものである。よつて基準時現在の所有者佐々木富男の同日現在の事実に基き、法定の保有小作地面積を超過するものとしてなした前記各買収処分に何等違法はない。なおまた、本件買収の時期は前記のとおり昭和二十三年十二月三十一日と定められていたのであり、買収計画樹立に際し、縦覧に供した書類及び各買収令書に買収の時期の記載のないのは、単なる記載の脱漏にすぎないのであり、固より買収の時期の定めがなかつたからではない。しかしてこの程度の瑕疵は、買収処分の取消をしなければならない程度の瑕疵にも該当しないから本件買収処分の効力に何等影響するものではない。よつていずれの点よりするも原告等の各本訴請求は失当として棄却さるべきであると述べた(立証省略)。

三、理  由

別紙目録記載の各土地が元訴外佐々木富男の所有であつたのを原告等がその主張の契約日時の点は暫く措き、それぞれその主張の同目録記載の各土地を買い受けたこと、右売買につき岩手県知事の許可を受けなかつたこと、右各土地のうち(1)(2)につき昭和二十一年一月二十八日原告春松及び種吉に、その余の(3)(4)(5)(6)につき同年一月二十三日原告豊吉、三郎、定吉、力蔵に対し佐々木富男からそれぞれ売買による所有権移転登記のなされたこと、岩手県農地委員会が、昭和二十年十一月二十三日現在の右各土地の所有者を右佐々木富男であるとして、同人に関する同日現在の事実に基き右各土地につき自創法第三条第一項第二号に該当するものとして昭和二十三年十二月二十八日買収計画を樹立し、翌二十四年二月十九日これを公告し、書類縦覧の手続をなしたこと、次いで被告知事が同年二月一日附原告等主張の各買収令書を発行し、右各令書のうち原告三郎及び豊吉に対する分は昭和二十五年八月五日、その余の原告等に対する分は同月七日それぞれ交付されたこと、右買収手続における買収の時期が昭和二十三年十二月三十一日であること、右買収計画樹立に際し縦覧に供せられた書類及び各買収令書に右買収の時期の記載のないこと、原告等はいずれも専業農家でありその所有農地は、原告春松は別紙目録記載(1)の土地を含めて一町七反歩であるに対し右(1)の土地の買収請求をした訴外麦沢仁太郎同福松の所有農地は一町八反十三歩であり、原告豊吉のそれは(3)の土地を含めて五反八畝十五歩、原告三郎のそれは(4)の土地を含めて一町二反四畝歩であるに対し、右(3)及び(4)の土地の買収請求者訴外穴津子音吉のそれは一町一反五畝九歩であり、原告定吉のそれは(5)の土地を含めて五反八畝歩であるに対し右(5)の土地の買収請求者の一人訴外大下政一のそれは一町三反六畝歩であり、原告力蔵のそれは(6)の土地を含めて六反六畝十歩であるに対し右(6)の土地の買収請求者訴外櫃割市太郎のそれは一町歩であること、及び原告種吉の所有面積は(2)の土地を含めて二町四反五畝歩であり、原告春松が右(2)の土地の買収請求をなしたことはいずれも当事者間に争がない。

そこでまず本件各土地の基準時現在における所有関係につき争があるので案ずるに、甲第一ないし第六号証各不動産売渡証書によれば、原告等がその主張日時訴外佐々木富男から別紙目録記載の各土地をそれぞれ買い受けた旨の記載があるけれども、原告等の買受取得の日時については、成立に争のない乙第一、二、三号証、証人穴津子音吉、麦沢仁太郎及び嶋守資郎の各証言に徴しそのまま採用し難く、また証人佐々木左右三、麦沢忠勇、櫃割由太郎の各証言中原告等の主張に副う供述部分は前記各証言に照らしにわかに措信し難い。その他原告等提出援用にかかる全立証をもつてするも、原告等がその主張のように基準時以前に本件各土地の所有権を取得した事実を肯認するに足る証拠がない。却て前記乙第一、二、三号証及び前顕証人嶋守資郎、穴津子音吉、麦沢仁太郎の各証言に、原告等が本件各土地の所有権移転登記を経由した日時が昭和二十一年一月二十三日又は同月二十八日であるという当事者間に争のない事実並びに昭和十八年九月二十六日別紙目録記載(1)の土地を訴外佐々木富男から買受けたと主張する原告春松が、同年十一月二十日同じく右訴外人から買受けたと主張する原告種吉の(2)の土地につき、基準時現在における右土地の小作人であるとして買収請求をなしたという当事者間に争のない事実を綜合して考えれば、本件各土地は右佐々木富男の先代頃より数十年に亘り訴外麦沢仁太郎外数名の者に小作せしめて来たところ、昭和二十一年一月十日頃右小作人等が右佐々木富男から各自小作にかかる部分を買い受けるよう交渉を受けたけれども、反当千五百円では高すぎるとのことでこれが買受を渋つているうち、右佐々木富男はその頃原告等と売買の話を進め、原告等にそれぞれ別紙目録記載のその主張の土地を売り渡したこと、しかしてこれが所有権移転登記をなすに当つては、登記原因たる売買の日時を基準時前にする必要から、原告春松については昭和十八年九月二十六日、その余の原告等については同年十一月二十日として登記申請をなし、そのように移転登記がなされたものではないかの疑問がないわけではない。

しからば基準時現在における本件各土地の所有者は、右佐々木富男であつたといわなければならないのであり、従つて県農地委員会が同人の基準時現在の事実に基き法定の小作地保有面積を超過するものとして別紙目録記載の土地につき買収計画を樹立し、被告知事がこれに基いて本件買収処分をなしたのであつて、仮りに本件土地がそれぞれ有効に原告等に移転したものとし、これをも含めて原告等の各所有農地がいずれも法定の小作地保有面積の範囲内であるとしても、右各所有権の取得が基準時以後である限り、原告等を買収の相手方としこれを買収し得ることは、本件買収処分が遡及買収である以上当然であるから、右売買につき知事の許可を受けたか否かについて判断するまでもなく、本件買収処分はその限りにおいては適法であるといわなければならない。

次に原告等は、買収計画樹立に際し縦覧に供した書類及び各買収令書に買収の時期の記載のないのは違法であると主張するので案ずるに、買収の時期は買収される農地等の所有権が政府に移転する時期であるから、自創法はこれを買収計画樹立に際し縦覧に供すべき書類及び買収令書の必要的記載事項(同法第六条第五項、第九条第二項)としている。ところで買収令書等に買収の時期の記載のない場合に二つの場合が考えられる。その一は買収の時期が客観的にも定まつていないためこれを記載し得ない場合であり、他は客観的には定まつているのであるが、偶々これが記載を遺脱した場合である。前者の場合は、実は単なる記載の欠缺の問題ではなく、買収の対象物件の所有権移転の時期が定まらないこととなり、このような買収の違法であることは固より明らかであるが、後者の場合は、法定の必要的記載事項の欠缺により買収令書等の形式的な完全性を害し、従つて要式処分である買収処分につき法の要求する一定の形式を損うという意味においては正に一個の瑕疵たり得る。

しかしてこの点の瑕疵がどのような結果をもたらすかを考察するに、元来自創法が買収令書等に買収の相手方、対象物件、対価及び買収の時期に関する記載を要求する所以のものは、買収処分が行政庁の一方的権限に基く処分であるから、その処分の内容を明確にして買収による法律関係を特定すると同時に、買収の相手方をして、その認識を容易ならしめて権利擁護に遺憾なきを期せしめるにあり、買収の時期記載も、買収による所有権移転の時期を明らかにして法律関係を特定するためになされているのである。しかるに買収による法律関係は、行政庁が法規に従い一方的に決するところであり、且つ買収令書等は手形法上の手形等の如きものと異なり、買収令書等の記載自体のみによりて特定せらるべきものではなく、買収令書等その他によつても特定し得られないものではないから、買収の時期がその買収手続上客観的に特定している限り、買収令書等にはその記載がないとしても法律関係は結局特定していることとなり、この点の要式性の要請は事実上充たされているのであるから、この点の要式性違背の形式上の瑕疵があつても何等実質的影響がない。

しかのみならず、買収の相手方が誰か、対象物件がどれであり、又はどれだけか、対価がいくらかであるかは、買収による法律関係の特定に関する事項であると同時に買収の相手方の権利擁護に関する事項でもあることは明白であるが、買収の時期もまた同時に権利擁護に関する事項でもあるかどうかは疑問である。買収の相手方は、買収の時期の記載のない買収令書の交付によつてもその所有の如何なる農地が如何なる理由で買収されるものであるかを認識し得られ、権利擁護のため適切な手段を講じ得るのであり、買収の時期の記載のないため所有権移転の時期を知り得なかつたことによつて相手方の受けることのあるべき不利益は果してどんなものがあろうか。例えば、相手方が農地所有権がいまだ自己にあるものと信じ、知事の許可を受けることなくしてこれを他に譲渡し、又は農地の現状を変更したため罰則の適用を受ける結果となることがあるとしても、それは農地移転の制約若しくは買収計画樹立の公告の結果に基くものであり、買収の時期を知らなかつたことによるものとはなし得ない。また買収処分後において相手方がいまだ所有権が自己にあるものと信じ、本来負担すべからざる地租等を納付したとしても、政府又は売渡を受けた者は右買収の相手方に対し当該地租等に相当する金額を支払わなければならないことになつているのであるから、相手方は実質的に損害を被らないことになるわけである。なおまた買収の相手方にとつて、時に買収の時期の定め方の遅い早いの如何によつて利害関係を異にすることがないでもないとし、買収の時期の定め方それ自体を不服の対象としようとしても、右買収の時期を知り得ないために出訴し得ない不利益があるかの如くであるが、元来買収の時期を何時に定めるかは、後段説明のとおり、買収計画樹立の公告の日以後でなければならないという制約を受ける外、自創法の精神に徴し権利の濫用と観得られる程に遅れない限り、その間の何時をもつてするも買収計画庁の自由裁量に属し、その一方的に決し得るものといわなければならないから、買収の相手方において買収の時期を知ると知らざるとにかかわらずその時期の遅速の簾を捉えて買収処分の取消の理由となし得べき限りではないのである。他に相手方において買収の時期を知らなかつたこと自体によつて特に不利益を被ることあるを知らないから、買収の時期は相手方の権利擁護に関する事項ではないものといわなければならない。従つて買収令書に買収の時期の記載を欠いても相手方の権利擁護の要請に違背するものというを得ない。

しからば客観的に買収の時期が定まつている以上、買収令書等にこれが記載を欠いたとしても、これをもつて、直ちに買収処分そのものを取り消さなければならないとする程の瑕疵あるものとは到底なし得ないところである。本件買収の時期が昭和二十三年十二月三十一日であることは前示のとおり当事者間に争がないのであり、客観的に定まつているのであるから、買収令書等にこれが記載のなかつたのは、単なる記載の遺脱にすぎないものというべく、右瑕疵は本件買収処分にこれを取り消さなければならないとする程の影響を及ぼすものではないといわなければならない。

次に原告は、本件買収計画樹立の公告の日が買収の時期の後であるから違法であると主張するので案ずるに、本件買収の時期が昭和二十三年十二月三十一日であり、買収計画樹立の公告の日が昭和二十四年二月十九日であることは前示認定のとおりである。ところで買収の時期は前段説明のとおり、買収される農地等の所有権が政府に移転する時期であり、この時期は買収処分の日時すなわち令書交付の日以後でなければならない必要はなく、その以前に遡らしめることのできることは言うを待たないところであるが、しかし、右遡及の限度は、買収処分の一方的権力処分たる性質に鑑み、政府の買収の意思が外部に対して表示される買収計画樹立の公告の日までにとどまり、それより遡つて買収の時期を定めることは許されないものと解する。従つて買収事務の処理上、買収機関において一定地域の農地につき買収の時期が予め画一的に定められている関係上、同地域内の特定農地の買収計画樹立に関する手続の遅延により、その計画樹立の日時が当初予定されていた買収の時期以後になることのあるべきことは想像に難くないところであるが、このような場合は宜しく予め定められている買収の時期を右公告の日以後に変更して処理すべきである。なんとなれば、若し買収の時期を変更しないときは、政府の買収の意思が定まり且つ外部に対しこれを表示する以前に既に買収の対象物件がその所有者より政府に移転する結果となり、理論上不都合なこととなるからである。もつとも自創法は、基準時買収において買収計画樹立の日時の如何を問わず、昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基いて買収処分をなし得るとしているから、少くとも基準時買収に関する限り、買収の時期を右基準時まで遡らしめ得るのではないかとの疑がないわけでもないが、しかし、基準時買収は法が特に明文の規定をもつて、買収要件についてその存否を基準時現在の事実に基き決すべきこととし、例外的に過去の事実を捉えて買収要件を決し得ることとしているのみであり、買収の時期のような買収の効力についてまでこれを基準時にまで遡らしめ得るとする規定が存しない以上、基準時買収にあつても、買収の時期を同日まで遡らしめ得るものと解することはできない。蓋し買収処分も一の法律行為であり、且つその効力は農地等の所有権を物権的に取得するものであるところ、法律行為のかかる効力は原則として法律行為の時に生じ、その効力を行為後の一定時期に生ぜしめる条件期限の合意は法律の許容するところであるが、行為以前に遡らしめることは原則として許容しないところであるのみならず、買収処分のような行政庁のなす一方的権力処分行為にあつては益々許容し難い事情があるものといわなければならないからである。しかして、買収処分は買収計画に始まり買収令書の交付をもつて終了する一連の手続をもつてなされる処分行為であり、しかも買収の時期は買収計画当時定つていなければならないのであるから、この場合の行為の時は買収計画を外部に表示する買収計画樹立の公告の日としなければならないこと明らかであろう。しからば本件において買収計画樹立の公告の日が昭和二十四年二月十九日であるのに、その以前である昭和二十三年十二月三十一日を買収の時期と定めてなした本件買収処分は明らかに違法であり、取消を免れない。

よつて原告等の各本訴請求は、結局理由があるから正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

(目録省略)

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